大メディアは広末涼子をさらし者にして喜んでいる場合ではない
2023年6月18日
まず、6月13日に成立したLGBT法案について私見を述べる。
差別には「許されない差別」と「許される差別」がある。
許される差別などない、つまり、個人の事実上の差異を考えることなく、すべての事柄は全く均一に平等に扱わなければならない(絶対的(形式的)平等)と考えると、
ある特定の国民を特別扱いする制度や法律はすべて憲法でいう平等原則違反になってしまう。
たとえば、税の累進課税制度や住民非課税世帯への定額給付金も平等原則に反することになるし、LGBTの人たちを保護するための法律も差別であるとの考えにつながり、不合理である。
そこで、一般的には、「許される差別」があってもよい、と理解されている。
昭和39年の最高裁は「憲法14条1項の法の下の平等は(中略)国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく」
「事柄の性質に即応して、合理的と認められる差別的取扱いをすることも許される」旨述べている。これを相対的(実質的)平等という。
憲法14条は 「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定める。
一般的な理解として、条文前段列挙事由は,歴史的に許されない差別なので、絶対的平等が貫徹されなければならないが、
列挙事由以外の差別は相対的な平等、すなわち、
社会通念上、合理的、正当な差別も許されると解釈されている。
絶対的平等は,社会における一切の機会の平等を意味し、機会さえ与えられていれば不平等の問題は生じないので,自由主義の考えと両立する。
だから、自由と平等の衝突の問題は容易に解決されることになる。
これに対して、相対的平等は、国がどのような措置を行うかという政策的要素が考慮されることになるので、自由の理念とは矛盾することになる。
この自由と平等の両者を調整するのは簡単ではない。
LGBTが絡む問題について、司法は自由と平等の調整の問題、すなわち相対的平等の問題だと認識しているようである。だから、地裁によって判断がバラバラになっている。
たとえば、ここ数年の同性婚をめぐる地裁の判決を見ると、違憲、違憲状態(実質合憲)と判断が区々バラバラである。
LGBT法は、この状況に終止符を打つべく、性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする差別は、憲法14条前段の「性別」の差別の問題、
すなわち絶対的平等の問題だとして、裁判での解釈の統一性を図る目的で議員から法案提出されたものである。。
ところが、今回成立した法案は、日本維新などの提案を受けて修正された結果、相対的平等の解釈を盛り込んだ内容となっている。
しかしこれでは今後も裁判官の恣意的判断で差別の合憲、違憲が繰り返される可能性があり、わざわざ立法化した意味が乏しい。
そもそも裁判で使えない努力義務の法律をいくら作っても、保護を求める側にとってはあまり意味のある代物ではない。
とはいえ、法律の存在は、最高裁レベルの判断に多少影響を及ぼすことになる(はず)なので、法の有効性の判断はそれまで待ちたいと思う。法律がないよりも少しはマシだと今は考えるしかない。
次に、岸田首相が6月解散を見送ったことについてだが、
結論から言えば、前回本ブログが冒頭に述べたことに尽きる。見送りの可能性も十分あった、ということである。
御用の田崎史郎にテレビで言われるまでもなく、年内解散なら9,10月になると予想される。
それまで岸田政権の支持率が持ちこたえるかどうかは、大メディア(NHKを筆頭とするテレビ)の忖度報道と北朝鮮訪問の実現にかかっている。
後者については、前回さわり程度に書いたが、いずれにせよ秋までにトップ会談まで行くのは難しいのではないか。そこで、今回は前者について少々苦言を呈しておく。
NHKと官邸の癒着が日に日に醜悪を極めている。
13日夜、岸田は「こども未来戦略会議」を説明するために緊急記者会見を開き、テレビニュースを電波ジャックした。
中身がほとんどない与太話をなぜこのような形で公表しなければならなかったのだろうか。
会見の前日、日本の航空部隊は、ドイツでNATOと合同軍事訓練を行っており、これは23日まで続く予定である。
演習には、NATO加盟国を中心に25か国が参加し、1万人の兵士と約250機の軍用機が集結している。
航空部隊による合同演習としてはNATO史上最大規模である。
ところが、NHKは、この欧州の大規模軍事訓練に日本が参加しているという重大事実を「ほぼ」スルーしている。
12日のNHKニュースウェッブをチェックしていただきたいと思う。
ニュースタイトルは「NATO発足以来最大規模の空軍演習始まる ロシアを強くけん制か」となっていて、ここには日本のにの字も入っていない。
日ごろNHKしかニュースを見ない、ネット記事もNHKの見出しだけという方は、日本が参加している事実すら知らないのではないか。
ただ、全く事実を隠すわけにもいかないと思ったのか、「アジアから唯一、日本の航空自衛隊の幹部もオブザーバーとして参加する予定だとしています」と付言していたが、伝えたのはたったこれだけである。
ところが、NHKニュースウェッブは、このわずか数行の内容すらも打ち消したかったようで、
ドイツ軍の方針がどうだの、トルコの大佐がこう述べているだの、どうでもいいような話をてんこ盛りして情報をミキサーにかけ、日本参加の事実をうやむやにさせている。
その4日後の16日、自公政権は、防衛費増額に向けた防衛費財源確保法を成立させた。
あの維新でさえ反対に回った法案を、平和の党(のはず)の公明党が賛成したのには驚いたが、
これにより、たとえば、時代遅れのトマホーク中古品400発を米国から1発5億円で、しかも米国価格の3倍の言い値で購入するための財源を国民から税金でむしり取ることが容易にできるようになった。
今回の「こども未来戦略会議」の緊急記者会見は、日程上これらの報道の中間に仕組まれた。
子供をだしにすれば何をやっても許されると思っている政権の情報戦術にNHKが中心的役割を果たしたということである。
ただ、民間地上波も似たようなもので、芸能人の広末涼子が書いたとされる文書の解説に、NATO軍事訓練参加報道の100倍以上の時間を割いて伝えている。
広末スキャンダル、NATO軍事訓練参加の裏で、NATOの日本事務所開設の交渉が進んでいるにもかかわらず、である。
そのNATOはロシア、中国と対峙する正真正銘の軍事同盟である。その支店が日本にも置かれるということは、ロシアとの関係悪化が歴史上最悪になるのは火を見るよりも明らかである。
今年2月、中国外交トップの王毅がクレムリンを訪問し、プーチンとの会談後、記者会見でロシアの全面支援を世界に公言した。
これにより、世界は中国、ロシア陣営VS欧米西側諸国陣営の構図が鮮明となった。
ウクライナ戦線でロシアは武器の枯渇と低レベルの情報処理能力が災いし、侵攻当時誰しもが予測できないほどの劣勢に現在立たされているが、中国はその両面の支援をロシアに約束したのである。
劣勢の理由となっている武器の枯渇は分かりやすいが、後者の情報戦の完敗については少し説明が必要である。
ウクライナにはIT企業が5千社以上、年間収益は30億ドル以上、技術者は20万人以上いるとされているが、
このIT大国に、米国の巨大IT企業群のGAFAとイーロンマスク傘下の宇宙航空会社が無償でウクライナに技術と情報を提供し続けている。
これにより、ウクライナは、衛星画像によるロシア軍の位置情報の把握といった初歩的技術取得だけでなく、高度なハッキング能力も得たとされる。
今後中国が欧米のように、ロシアに武器供与と情報技術の提供を本格的に行うようになれば、ウクライナ戦線はさらに複雑化していくことが予想される。
ぜレンスキー大統領は、18歳から60歳までの男性の出国を禁じており、クリミア半島の奪還まで戦争をやめるつもりはなさそうである。
つまり、戦争は今後エスカレートすることはあっても、下火になることは考えられないということである。
だが、それもすべて米国次第だともいえる。バイデン政権はウクライナのクリミア奪還までは支援しないのではないだろうか。
そのように憶測する根拠については、過去にも2度ほど書いたが、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が、行き過ぎたウクライナ支援に否定的な発言を記者会見で繰り返し述べていること、
国防総省よりの軍事シンクタンク「ランド研究所」も否定的な意見を政府に進言していること、
共和党が基本的にウクライナ支援継続に賛成の立場なので、来年11月の米大統領選に向けて民主党がライバルと歩調を合わせて、戦線拡大(米国民の多くが反対)を叫ぶ必要性が乏しいこと、などである。
そうなると、今後世界でウクライナを支援する中心的存在は、NATOと日本になる可能性がある。岸田政権はウクライナに殺傷能力が高い武器支援をほのめかしているが、それはやがて現実のものとなるはずである。
さらに、NATOの日本事務所開設は、NATOの要請による集団的自衛権行使ととの解釈につながってもおかしくない。。
そうなれば、日本の自衛隊が、クリミアに8割超住んでいるロシア系住民を殺すために出動を余儀なくされるということが岸田政権下では理論上ありうるということになる。
ただ、一方で、来年になればこの複雑な国際情勢がいい意味で一変する可能性も考えられなくはない。
来年1月には台湾総統選挙が行われるが、ここで反中国候補が勝てば、中国共産党もロシア支援にかまけていられなくなるはずである。
3月には、ロシアで大統領選が行われるが、ここで反プーチン候補が勝てば、ウクライナ情勢に大きな変化が訪れることになるだろう。
11月には米大統領選が行われるが、トランプが立候補して勝てば、ウクライナ支援が縮小される可能性は十分ある。
前回大統領選で、トランプはバイデン親子が関わっていたとされるウクライナ疑惑を追及していた。その男がウクライナの戦争利権に深入りするとは思えないのである。
翻って日本の立場である。ゼレンスキーに必勝しゃもじを渡して殺傷能力の高い武器供給に前のめりになっているような岸田政権に、国際情勢の急激な変化に柔軟に対応できる能力があるとは到底思えない。
気が付けば、日本だけがロシアとの関係を悪化させ、国際情勢の流れから取り残されていくのではとの懸念はぬぐえない。(ちなみにNATO陣営ではフランスがロシアの立場に配慮して日本事務所開設に反対している)
全くの憶測だが、岸田が次期解散総選挙を来年ではなく、年内を模索しているのは、以上のような世界のカレンダー事情が頭にあるのかもしれない。
それはともかく、メディアには、国内問題だけでなく、世界の社会情勢について忖度することなく正確に伝えていくことがこれまで以上に求められているといえる。
もっとも、1人の女性の恋文を公開してさらし者にして喜んでいるような国のメディアには無理だろうが。(国民も同罪というべきか)
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